認知症の症状
人間には、目や耳が捕らえたたくさんの情報の中から、関心のあるものを一時的に捕らえておく器官(海馬、仮にイソギンチャクと呼ぶ)と、重要な情報を頭の中に長期に保存する「記憶の壺」が脳の中にあると考えてください。
いったん「記憶の壺」に入れば、普段は思い出さなくても、必要なときに必要な情報を取りだすことができます。
しかし、年をとるとイソギンチャクの力が衰え、一度にたくさんの情報を捕まえて おくことができなくなり、捕まえても、「壺」に移すのに手間取るようになります。
「壺」の中から必要な情報を探しだすことも、ときどき失敗します。
年をとってもの覚えが悪くなったり、ど忘れが増えるのはこのためです。
それでもイソギンチャクの足はそれなりに機能しているので、二度三度と繰り返し ているうち、大事な情報は「壺」に納まります。
ところが、認知症になると、 イソギンチャクの足が病的に衰えてしまうため「壺」に納めることができなくなります。
新しいことを記憶できずに、さきほど聞いたことさえ思い出せないのです。
さらに、病気が進行すれば、「壺」が溶け始め、覚えていたはずの記憶も失われていきます。
引用:厚生労働省政策レポート認知症を理解するより
見当識(けんとうしき)とは、現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握することをいいます。
見当識障害は、記憶障害と並んで早くから現われる障害です。
まず、時間や季節感の感覚が薄れることから
時間に関する見当識が薄らぐと、長時間待つとか、予定に合わせて準備することができなくなります。
何回も念を押しておいた外出の時刻に準備ができなかったりします。
もう少し進むと、時間感覚だけでなく日付や季節、年次におよび、何回も今日は何日かと質問する、季節感のない服を着る、自分の年がわからないなどが起こります。
進行すると迷子になったり、遠くに歩いて行こうとする
初めは方向感覚が薄らいでも、周囲の景色をヒントに道を間違えないで歩くことが できますが、暗くてヒントがなくなると迷子になります。
進行すると、近所で迷子になったり、夜、自宅のお手洗いの場所がわからなくなったりします。
また、とうてい歩いて行けそうにない距離を歩いて出かけようとします。
人間関係の見当識はかなり進行してから
過去に獲得した記憶を失うという症状まで進行すると、自分の年齢や人の生死に関する記憶がなくなり周囲の人との関係が わからなくなります。
80歳の人が、30歳代以降の記憶が薄れてしまい、50歳の娘に対し、姉さん、 叔母さんと呼んで家族を混乱させます。
また、とっくに亡くなった母親が心配しているからと、遠く離れた郷里の実家に歩いて帰ろうとすることもあります。
認知症になると、ものを考えることにも障害が起こります。
(1)考えるスピードが遅くなる
逆の見方をするなら、時間をかければ自分なりの結論に至ることができます。
急がせないことが大切です。
(2)二つ以上のことが重なるとうまく処理できなくなる
一度に処理できる情報の量が減ります。
念を押そうと思って長々と説明すると、ますます混乱します。
必要な話はシンプルに表現することが重要です。
(3)些細な変化、いつもと違うできごとで混乱を来しやすくなる
お葬式での不自然な行動や、夫の入院で混乱してしまったことをきっかけに認知症が発覚する場合があります。
予想外のことが起こったとき、補い守ってくれる人がいれば日常生活は継続できます。
(4)観念的な事柄と、現実的、具体的なことがらが結びつかなくなる
「糖尿病だから食べ過ぎはいけない」ということはわかっているのに、目の前の おまんじゅうを食べてよいのかどうか判断できない。
「倹約は大切」と言いながらセールスマンの口車にのって高価な羽布団を何組も買ってしまうということが起こります。
また、目に見えないメカニズムが理解できなくなるので、自動販売機や交通機関の自動改札、銀行のATMなどの前ではまごまごしてしまいます。
全自動の洗濯機、 火が目に見えないIHクッカーなどもうまく使えなくなります。
計画を立て按配することができなくなる
スーパーマーケットで大根を見て、健康な人は冷蔵庫にあった油揚げと一緒にみそ汁を
作ろうと考えます。
認知症になると冷蔵庫の油揚げのことはすっかり忘れて、大根といっしょに油揚げを
買ってしまいます。
ところが、あとになっていざ夕食の準備にとりかかると、さっき買ってきた大根も油揚げも
頭から消えています。
冷蔵庫を開けて目に入った別の野菜でみそ汁を作り、冷蔵庫に油揚げが二つと大根が
残ります。
こういうことが幾度となく起こり冷蔵庫には同じ食材が並びます。
認知症の人にとっては、ご飯を炊き、同時進行でおかずを作るのは至難の業です。
健康な人は頭の中で計画を立て、予想外の変化にも適切に按配してスムーズに進める
ことができます。認知症になると計画を立てたり按配をしたりできなくなり、日常生活が
うまく進まなくなります。
保たれている能力を活用する支援
認知症の人は「なにもできない」わけではありません。
献立を考えたり、料理を平行して進めることはうまくできませんが、だれかが、全体に目を
配りつつ、按配をすれば一つひとつの調理の作業は上手にできます。「今日のみそ汁は、
大根と油揚げだよね」の一言で油揚げが冷蔵庫にたまることはありません。
「炊飯器のスイッチはそろそろ入れた方が良いかな?」ときいてくれる人がいれば、
今までどおり、食事の準備ができます。
こういう援助は根気がいるし疲れますが、認知症の人にとっては必要な支援です。
こうした手助けをしてくれる人がいれば、その先は自分でできるということが
たくさんあります。